コラム

年金の繰り下げ受給とは?仕組みや注意点についてわかりやすく解説

年金の繰り下げ受給とは、本来なら65歳から貰える老齢基礎年金と老齢厚生年金の、受給開始時期を遅らせることです。繰り下げ受給をすると年金額が増額されるのですが、デメリットもあるため、繰り下げ受給しない方が得になるケースもあります。

この記事では繰り下げ受給の仕組みや注意点をわかりやすく解説します。

年金の繰り下げ受給とは?

年金の繰り下げ受給とは、原則的な受給開始年齢である65歳になっても年金を貰わず、受給を先伸ばしすることです。老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給開始時期は、最大70歳まで1カ月単位で繰り下げが可能です。

ただし65歳から最初の1年間は月単位での繰り下げができず、66歳を超えると66歳1カ月、2カ月、と月単位で受給開始時期を自分で決定する形になります。受給開始を遅らせる分、1カ月繰り下げるごとに年金が0.7%増額されます。

※年金の繰り上げ受給

繰り上げ受給とは、60歳から65歳未満で年金を受け取ることです。1カ月単位で繰り上げでき、本来より若い年齢で受け取る分、1カ月早めるごとに0.5%の年金が減額されます。60歳0カ月まで繰り上げれば30%の減額です。

年金の繰り下げ受給をするメリット・デメリットとは?

年金の繰り下げ受給にはメリットとデメリットがあるので、理解した上で実際に繰り下げるか検討しましょう。

メリット

繰り下げ受給のメリットは、受給額の増加です。

年金額が増額され一生続く

開始時期を先延ばしする代わりに、繰り下げ受給では貰える年金が増額されます。1カ月繰り下げるごとに0.7%増額されるので、1年間先延ばしにするだけで8.4%アップした年金を受け取れます。

超低金利時代と言われる現代、メガバンクの普通預金の金利が0.001%程度であること考慮すると、月あたり0.7%の年金増額は注目に値するのではないでしょうか。請求手続きを取った時点の増額率で固定されるため、例えば最長の70歳まで繰り下げていた人は、42%増額された年金を生涯に渡って受給できます。

デメリット

繰り下げ受給には3つのデメリットがあります。

税金および社会保険料が増える

年金が増えれば所得が増えたとみなされるので、税金や社会保険料も増える場合があります。年金の手取り額は税金などの天引き後の金額であるため、繰り下げ受給で年金が増えても額面通りに貰えるわけではありません。

結果的に繰り下げ損となるリスクがある

死亡した時点で年金は支給停止となるため、元が取れる前に亡くなると繰り下げ損になります。長生きするほどたくさん年金を貰えることになりますが、寿命は誰にも分からないため、繰り下げ損のリスクは理解しておきましょう。

加給年金の権利がなくなってしまう

加給年金は厚生年金とセットでもらえる「家族手当」のようなお金であり、諸要件を満たせば妻が65歳になるまでの期間等に支給されます。厚生年金を繰り下げている間は加給年金を受け取れず、繰り下げ期間中に妻が65歳を迎えると、加給年金を受け取る権利はなくなります。

加給年金の受給期間は夫婦の年齢差によって変わるため、繰り下げによる年金増額と加給年金の損失の差を比較して、繰り下げるべきか検討すると安心です。

年金を繰り下げ受給した場合の増額率とは?

65歳に達した月から受給開始を1カ月遅らせるごとに年金の増額率が0.7%ずつ上がります。現行法では最大70歳までですが、2022(令和4)年4月実施の年金制度改正法によって、2022年4月1日以降に70歳に達する人からは最長75歳まで受給開始を引き延ばすことができるようになります。

繰り下げ期間による増額率の変化を以下の表に示します。

請求時
の年齢

0カ月

1カ月

2カ月

3カ月

4カ月

5カ月

6カ月

7カ月

8カ月

9カ月

10カ月

11カ月

66歳

8.4

9.1

9.8

10.5

11.2

11.9

12.6

13.3

14.0

14.7

15.4

16.1

67歳

16.8

17.5

18.2

18.9

19.6

20.3

21.0

21.7

22.4

23.1

23.8

24.5

68歳

25.2

25.9

26.6

27.3

28.0

28.7

29.4

30.1

30.8

31.5

32.2

32.9

69歳

33.6

34.3

35.0

35.7

36.4

37.1

37.8

38.5

39.2

39.9

40.6

41.3

70歳

42.0

42.7

43.4

44.1

44.8

45.5

46.2

46.9

47.6

48.3

49.0

49.7

71歳

50.4

51.1

51.8

52.5

53.2

53.9

54.6

55.3

56.0

56.7

57.4

58.1

72歳

58.8

59.5

60.2

60.9

61.6

62.3

63.0

63.7

64.4

65.1

65.8

66.5

73歳

67.2

67.9

68.6

69.3

70.0

70.7

71.4

72.1

72.8

73.5

74.2

74.9

74歳

75.6

76.3

77.0

77.7

78.4

79.1

79.8

80.5

81.2

81.9

82.6

83.3

75歳

84.0

-

-

-

-

-

-

- 

- 

- 

- 

- 

(単位:%)

70歳1カ月以降75歳までの繰り下げ範囲拡大は、2022年の法改正後となりますので注意しましょう。

年金の繰り下げ受給に向いている人・向いていない人とは?

年金の繰り下げ受給が向いているか否かは、配偶者との年齢差や老後資金の多さなど複数の要素から判断します。

向いている人

年金の繰り下げ受給に向いている人は、以下の3パターンです。

長く働くつもりの人

65歳以後も働いて十分な給料を貰える場合は、年金をすぐ受給する必要がないため、繰り下げ受給を検討するのもおすすめです。繰り下げにより将来的な年金額を増やし、完全にリタイアした後の生活資金として備えることができます。

年金額が少ない人

長い間専業主婦だった場合など、年金額の少ない人も繰り下げ受給が適しています。なぜなら、年金が増えても税金・社会保険料の負担が変わらないケースが多いためです。

例えば、20歳から60歳までずっと専業主婦だった人の年金は老齢基礎年金のみで、最大78万円程度です。70歳まで繰り下げれば年金額は約111万円に増えますが、個人年金など他の収入がなければ、公的年金等控除額の範囲内となり非課税です。

長生きできると考えている人

目立った病歴がない、家系的に長寿であるなど、健康に自信のある人も繰り下げ受給を検討すると良いでしょう。後述しますが繰り下げ受給を開始してから元が取れるまでおよそ12年かかるので、短命な人は繰り下げ損となってしまいます。

寿命は予測不能ではありますが、健康に自信のある人は繰り下げ受給を検討する価値があります。

向いていない人

年金の繰り下げ受給に適さないのは以下の人です。

老後の資金が少ない人

65歳で完全退職または65歳以降の収入がごくわずかになる人や、老後資金が乏しい人など、「年金受給を先送りにすると日々の生活資金が不足しかねない」というケースでは、繰り下げ受給は不適と言えます。

年金額が多い人

年金額が多い人は、繰り下げ受給を検討する必要性があまり高くはありません。繰り下げ受給の場合、早逝すると元が取れずに繰り下げ損となってしまうので、そのリスクを考慮しながら判断すると良いでしょう。

また、繰り下げにより年金が増えれば、負担する税金や社会保険料も増えることにも注意が必要です。

加給年金を受給したい人

配偶者が年下であり加給年金を受け取りたい場合は、厚生年金は繰り下げてはいけません。前述の通り、厚生年金を繰り下げると加給年金が受給できなくなるためです。

加給年金を受け取りつつ少しでも年金を増やしたいという人は、厚生年金は65歳から受給し、基礎年金だけを繰り下げるという方法を検討するのがおすすめです。

年金の繰り下げ受給を決める際に知っておきたい注意点とは?

年金の繰り下げ受給で得するかどうかはケースバイケースとなるため、以下のポイントを押さえて判断しましょう。

年金開始後12年目が損益分岐点になっている

損益分岐点とは繰り下げ受給による年金の累計額が、繰り下げないで65歳から貰う場合を上回るタイミングのことです。受給開始してから12年目が損益分岐点となります。例えば、70歳まで繰り下げると42%増額されますが、81歳までは元を取ることができないのです。

長生きするほど、繰り下げ受給のほうが得になります。厚生労働省の令和元年簡易生命表の概況1.主な年齢の平均余命によると、平均寿命は男性 は81.41 年、女性 は87.45年です。自身の健康や老後資金の状況などから12年後の生活を考えて判断すると安心かもしれません。

繰り下げ方法は3通りある

繰り下げ方法は次の3通りです。

・基礎年金だけ繰り下げる

・厚生年金だけ繰り下げる

・両方とも繰り下げる

前述の通り、加給年金の受給対象の人は、厚生年金を繰り下げている間は加給年金が受け取れません。加給年金を受け取りたい場合には厚生年金は繰り下げず、基礎年金のみを繰り下げ対象にする必要があります。

遺族年金・障害年金は繰り下げできない

繰り下げられる年金は基礎年金と厚生年金の2種類であり、他の年金が発生すると以降の繰り下げができなくなります。例えば65歳の時点で障害年金や遺族年金を受給している人は、基礎年金・厚生年金の繰り下げは出来ません。

また、繰り下げ期間中に障害年金や遺族年金の受給権を得た場合も、障害年金や遺族年金の受給権を得た時点での増額率で固定されます。その場合は65歳からの基礎年金・厚生年金をさかのぼって請求するか、他の年金が発生した時点での増額率で受給開始するかを選択します。

何もしないと自動的に繰り下げ受給になってしまう

年金を受給開始するには、65歳になるとき以降、自分自身で年金請求を行わなければなりません。何もしないと自動的に繰り下げ受給扱いになります。

受給開始年齢の3か月前頃に日本年金機構から「年金請求書(事前送付用)(国民年金・厚生年金保険老齢給付)」が送られ、受給開始年齢の誕生日の前日以降に年金事務所で請求手続きを行います。年金には5年の時効があり、請求せずに5年経過すると過ぎた分を貰えない恐れがあるので注意しましょう。

※参考:

「年金請求書(事前送付用)」は、いつ頃、どのような人に送付されるのですか。|日本年金機構

老齢年金の請求手続き|日本年金機構 

5年分さかのぼって一括請求できる

年金が必要になったタイミングからさかのぼって一括請求することが可能です。「70歳まで繰り下げようと考えていたが、怪我や病気や生活費が足りなくなった」という場合でも、最大5年分を一括請求できます。

例えば67歳0か月で年金が必要になった場合、この時点で請求して増額率16.8%で受給開始するか、65歳にさかのぼって一括請求するかを選択します。ただし65歳まで遡って一括請求すれば、増額率は0%となりそれ以降の繰り下げはできません。

まとめ

年金の繰り下げ受給を行うと、年金額を増やすことが可能です。しかし繰り下げ受給にはデメリットもあるため、繰り下げるか否かを慎重に検討する必要があります。本記事で紹介したポイントや注意点をぜひ参考にしてください。

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